「鈴木」ゆかりの能を復曲 能楽師の思い

海南市を訪れた鈴木啓吾さん

海南市藤白にある鈴木姓のルーツ「鈴木屋敷」復元への一助にしようと、復曲能『鈴木三郎重家』が3月29日、国立能楽堂(東京都渋谷区)で上演される。藤白鈴木氏出身の鈴木三郎重家、亀井六郎重清兄弟の事績を扱った物語で、観世流シテ方能楽師の鈴木啓吾さん(54)が主宰する「一乃会」が、多くの支援を仰ぐ勧進能として上演。監修は国文学研究資料館副館長の小林健二さんと狂言師の野村萬斎さん。講談師の神田織音さんの新作講談「『鈴木三郎重家』義経と重家の出逢い」も披露される。鈴木さんに、今回の公演や鈴木屋敷に寄せる思いを聞いた。
★復曲のきっかけは鈴木屋敷を訪れたことだったんですね
上演作『鈴木三郎重家』は、原題には『鈴木』『語鈴木(かたりすずき)』『重家(しげいえ)』など、いくつかの呼び方がありましたが、室町時代後期ごろに作られ、江戸時代初期ごろまで上演されていた曲です。
私はこの曲の存在を、『謡曲全集』(國民文庫刊、明治44年)で知ってはおりましたが、鈴木三郎重家という人物、また、鈴木のルーツということを、昨年藤白神社を訪れるまでまったく知りませんでした。
子どもの頃から身の周りによくある苗字でしたので、この「鈴木」という名前に特別な思いを持ってはおりませんでした。むしろ、ありふれた名前ゆえに、もっと個性的な、珍しい名前だったら良かったのになぁ…などと思ったりもしました。
ところが藤白神社を訪れ、鈴木のルーツを知り、鈴木三郎重家・亀井六郎重清兄弟の事績を知って、私の中ににわかに「鈴木」という名前に対する誇らしい思いが湧いてきたのです。
重家という人物を知って、改めてこの廃曲となっている『語鈴木』の本文を読み返してみると、とてもよく作られた作品でした。折しも藤白の鈴木屋敷を復元・再生しようと、藤白神社・鈴木屋敷復元の会・藤白鈴木会の皆さま方が尽力されていらっしゃる…。能楽の世界に身を置く鈴木として、何かお役に立てることがあるとすれば、この曲を復曲して多くの方々に観ていただき、重家と鈴木屋敷のことを知ってもらうことではないかと思い、今回の復曲能の上演となりました。
★どのような物語でしょうか
病気の母を見舞い、主君である源義経の一行から離れ藤白に戻った重家。母の病が良くなったことを受け重家は奥州に逃れた義経のもとを目指します。途中頼朝の家臣、梶原方の手の者に捕らわれ、頼朝の御前に引き出されます。頼朝が口にした義経への疑惑に、臆することもなくとうとうと主君義経の正当性を語る重家。その潔さ、清々とした態度、あつい忠義の心をいたく気に入った頼朝は、自らの家来になれば縄を解いてやると重家に伝えます。断れば首を落とされ、義経のもとへ参じることがかなわぬ…。考えた重家は頼朝の家臣となることを了承します。烏帽子(えぼし)・直垂(ひたたれ)に装いを改め、頼朝の御前に。酒宴の場で頼朝の命により重家はさっそうと舞を舞います。良い家臣ができたと喜び、ご機嫌に寝所へと引き揚げていく頼朝。一人後に残った重家はその隙に烏帽子・直垂を脱ぎ捨て、奥州を目指して旅立っていきます。
★意義のある復曲となりますね
親子は一世、夫婦は二世、主従は三世の契りと言いますが、形勢不利と見るや平気で主君を変えてしまう武士は昔から多かったようです。武士の世の中だからこそ、「武士のかがみ」の能として、現在でも現行曲として上演されている『鉢木』や、あるいは廃曲となったこの『語鈴木』は、主君に対するあつい忠義の物語として大きな意義のある曲であったのだと思います。その後『語鈴木』が上演されなくなったのには、たとえ主君義経のためであっても、源氏の棟梁・幕府の将軍である源頼朝をだまして良しとするのはいかがなものかと、徳川将軍家が考えたからなのか、その理由は分かりませんが、江戸時代初期の上演記録を最後に現行曲から消えてしまったのです。
源義経の家臣でありながら、鈴木三郎重家と亀井六郎重清の兄弟が世間的に有名でないのは、『平家物語』や『源平盛衰記』の中にその名前やエピソードが入れられていないことが要因ではないかと思われます。「こんなカッコイイご先祖さまがいたんだよ!」と、重家や重清の存在をいまだ知らない全国の鈴木さんに伝えたい。そして藤白神社・鈴木屋敷のことを一人でも多くの鈴木さんに知っていただきたい。そんな思いでおよそ300年の時を経て今一度この作品に日の光を当てたいと思います。
【復曲能『鈴木三郎重家』】出演=鈴木啓吾、永島充、殿田謙吉、則久英志――他。公演は午後6時半から。入場料は特別席1万5000円(御手土産、鈴木屋敷復元の会への寄付を含む)▽SS席1万2000円▽S席1万円▽A席8000円――など。チケットは9日午前10時から一般発売。チケットの問い合わせは一乃会(℡03・3269・7018=平日午前10時~午後7時)。

記事元: わかやま新報 ※掲載記事内容は記事提供元で過去に掲載された内容になります。

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