
いまや全国的な知名度を持つ「和歌山ラーメン」。そのブームが生み出された経緯を知る筆者が、後世に伝えるべく、ロカルわかやまに書き綴る。
これを綴っているのが2025年6月。さかのぼること27年前の正月から物語は始まる。なお、記述内容は筆者の記憶によるものなので、「裏付けは!」「ソースは?」と厳しいツッコミには弱いことを、先に白状しておこう。
ブームのきっかけは「TVチャンピオン」
1998年1月、テレビ東京で「TVチャンピオン 日本一うまいラーメン選手権」が放送された。

同番組の人気シリーズ「ラーメン王選手権」で壮絶な戦いを演じた筋金入りのラーメン通5名が、各々が思う日本一候補のお店を2店ずつ推薦。北は小樽から南は久留米までの計10店がノミネートされ、5人揃って全店を食べ歩いてジャッジ、日本一のラーメンを決めようという企画である。
結果、石神秀幸さん(ラーメン評論家・実業家)が推奨した和歌山市の「井出商店」が日本一に決定! 地元では深夜に行列ができるお店として有名だったが(当時はお昼3時から深夜3時までの営業と記憶)、日本一と紹介されたことで県外からのお客が殺到し始めた。
テレビの影響力が、まだまだ絶大だった時代のお話である。
東京のマスコミ界に火が付いた!?
正月休みが明け、数日経った頃、オフィスに1本の電話が入る。
社員A「〇〇さ~ん、東京のなんとかという会社が、和歌山のラーメンについてどうのこうの言うてるんですけど、出てくれます?」
私「なんや、その要件は……もしもし、お電話かわりましたが」
相手「わたくし、東京の〇〇の〇〇と申します」
(わちゃ~、標準語や。会社名、聞き取れんかったぞ)
相手「東京で今『和歌山ラーメン』が話題になっていまして」
(わ、和歌山ラーメンってなんやねん)
相手「わたくし、和歌山ラーメンを食べたことがないのですが、おいしいのでしょうか?」
(いきなりそんな質問かい!)
私「まぁ、ウマイですよ」
相手「そうですか…ウマイっと。えー、和歌山ラーメンって、まだまだ全国的にはマイナーですよね」
私「う~ん、そうなんかな~」
(和歌山ラーメンっていう言い方、なんとかならんのか)
相手「全国ネットのテレビで紹介されたし、これからメジャーになりますよね」
私「でしょうね」
相手「は、はい。ありがとうございました」
(ガチャッ)
このやり取りから約2~3週間後、1冊の雑誌が某社から送られてきた。“掲載誌在中”と書かれた封筒を開け、中身をパラパラ。付箋が貼られたページを見ると…
「地元マスコミが吠えた! 次は和歌山ラーメンが天下を獲る!!」
いやいや、いっこも吠えてないし。
和歌山の「中華」を食べ歩き
それから数日後。
社員A「〇〇さ~ん、東京のなんとかというテレビの制作会社からお電話で~す。和歌山ラーメンについて聞きたいそうで」
私「またかいや。いま手が離せんのや。適当に答えといて」
社員A「女の人の声ですけど~」
私「出るわ」
社員A「………」
東京のマスコミはおそろしい。我々が血と汗と涙で集めた情報を、電話1本で聞き出そうとするのだから。
相手「和歌山ラーメンの評判のお店を教えてください」
(ありきたりの質問やな)
私「そうですねぇ…〇〇と〇〇、それに〇〇や〇〇に〇〇といったところでしょうか」
相手「ありがとうございます。最近それらのお店はよく耳にします。他に穴場のお店ってないでしょうか?」
アンタがこっちへ来て自分で探せや! と思ったが、待てよ。地元和歌山に居ながら、和歌山の中華そばの詳細情報を持っておらず、穴場を聞かれて、すっと答えられなかったではないか。正直、ちょっと恥じた。
こんなことでは、和歌山の味がどうのこうの語れない。東京のマスコミと一緒ではないか。全然、血と汗と涙を流していないのではないか。
時間はお昼前。ちょうど腹が減ってきた。今日は「中華」(←和歌山の人は当時、ラーメンをこう呼ぶのが一般的だった)を食べよう! そうだ、明日も、あさっても!!
こうして和歌山県内あちこちの「中華」のお店を食べ歩き、その味を記憶にとどめる日々が続いた。と同時に、ますます増える東京・大阪のマスコミからの問い合わせにもしっかり対応。
桜の季節が過ぎ、GWはちゃっかり遊び、梅雨は嫌やなぁと思っているうちに、あのキーパーソンと出会うことになる。
第2話に つづく(近日公開)
【わかやま伝統の一杯】
「丸木」の中華そば

「中華そば」は大盛りもチャーシューもなく(食べログの口コミで「裏メニューのチャーシュー麺あり」とあるが…)、これ1本でずっと勝負。あとは、「さば寿司」(130円)、「ゆで玉子」(70円)のサイドメニューだけ。中華が運ばれてくると、醤油のいい香り。濃そうに見えるスープは至って優しく、斜め向かいのテーブルで仕事中のタクシーの運転手が、美味しそうにすすっていた。じゃあ、僕も。
名称 | 丸木 中華そば |
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所在地 | 和歌山県和歌山市和歌浦南1-1-3 ![]() |
電話番号 | 073-447-9557 |
営業時間 | 17:00~23:00 |
定休日 | 月曜、第3火曜 |



彷徨うEditor。昭和末期、新宿スタジオALTAから全国ネット放送出演3回、ツッコミ担当。20世紀末、和歌山ラーメンブーム仕掛け人の1人。