紀三井寺に乙姫来山 千日詣の龍灯献上行脚
龍宮から乙姫が龍灯を携えて来山するという紀三井寺(和歌山市)に伝わる逸話を再現する「龍宮乙姫龍灯献上行脚」が9日夜、厳かに行われた。毎年のこの日、一日の参詣で千日分の功徳が得られるとされる「千日詣」の由来となった伝説を広く知ってもらおうと始まり、今回で5回目。福を授かろうと多くの参拝者が夜の境内に集まり、美しく、幻想的な衣装と演出で登場した乙姫一行の舞いと行列に見入った。
【写真】龍灯をささげて本堂に到着した乙姫の一行
奈良時代の宝亀元年(770)、唐から日本に渡り、紀三井寺を開山した為光上人が大般若経の写経を終えた際、乙姫が現れて観音霊場の建立を喜び、海の中でも消えない龍灯を献上するため、毎年8月9日に龍宮から訪れると話すと、龍の背に乗って姿を消したと伝えられている。
「龍宮乙姫龍灯献上行脚」は、この伝説を広く知ってもらい、地域活性化につなげようと、2017年に初めて開催。18年から乙姫役を決めるオーディションが始まり、コロナ禍による20~22年の中止を経て、今回が5回目となった。
これまでは紀三井寺が主催し、初代乙姫を務めたエヴァ香陽さんが代表理事の和歌山オリエンタルダンス協会が協力してきたが、今回から両者の共催となり、より一体的に取り組みを発展させていくことになった。
今回のオーディションでは五代目乙姫役に和歌山市の会社員、崎濱菜花さん(26)が選ばれ、乙姫と共に行脚する女官役4人、一行を迎える巫女(みこ)役3人が決まった。
9日午後8時、夜の境内に乙姫一行が登場。「龍宮乙姫、龍灯献上、一日千日、福徳招来!」と高らかに口上が響き、巨大な龍のオブジェの先導に続き、龍灯を手にした乙姫と女官たちが華やかな衣装で練り歩いた。
一行は境内の広場と舞台まで来ると、鮮やかな衣装と紫や黄色の布、扇子を翻しながら舞を披露。レーザー光線を使った光の演出が新たに加わり、異界である龍宮を思わせる幻想的な雰囲気で境内を包んだ。
舞台上で乙姫から龍灯を受け取った前田泰道貫主は「千日功徳の龍灯、確かに受納つかまつらん。善哉(よきかな)善哉、結縁の衆生、厄難解除、福徳招来の龍灯、間近で結縁幸いなり。千日分の所願成就を祈られたし」と厳かな声で述べた。
今回は巫女による語りが入り、乙姫伝説の全容がより分かりやすく伝わる演出が工夫され、参拝者は目の前の乙姫たちの姿を見つめながら、千日詣の由来に思いをはせ、大きな拍手を送った。
舞を終えた一行は、「さても乙姫、観音宝前にて安らいたまへ」との前田貫主の案内で本堂へと進み、行脚を終えた。最後に広場では、手にすると福が授かるといわれる福棒投げが行われ、千日詣の一日を締めくくった。
乙姫の大役を終えた崎濱さんは「たくさんの人が楽しみにしているイベントなので、ことしも来て良かったと思ってもらえるように取り組んできた。本番が近づくに連れてプレッシャーがあったが、皆と一緒にきれいな舞を披露することができてうれしい。多くの方に支えられて無事に終えられ、感謝の気持ちでいっぱい」と話していた。