福島の佐藤さん帰郷へ 避難生活5年8カ月

富徳館の門下生と佐藤さん㊥

東日本大震災後、福島第一原発事故の影響で、福島県富岡町から和歌山市に移り、避難生活を送っていた佐藤勉さん(71)が今月中旬、福島へ戻ることを決めた。ふるさとを思いながら5年8カ月にわたった和歌山での生活。子どもたちに剣道を指導し、女性の剣道教室を立ち上げるなど、不安な日々を支えたのは剣道や和歌山で出会った人との絆。佐藤さんは「皆さんに助けてもらい、和歌山での経験は心の宝、一生の思い出になると思う」と振り返る。

佐藤さんは震災発生から6日後、妻の和子さん(67)と共に娘夫婦が住む同市へ避難した。福島県剣道道場連盟の会長を務め、少年剣道団で指導してきた佐藤さんは、直後から海南市で子どもたちに剣道を指導。避難者でつくる県人会「笑福会」を発足させ、交流の場とした。

福島でも開き、好評だった女性向けの剣道教室を立ち上げ、富岡町の一字をとって「富徳館(ふとくかん)」と名付けた。県立武道館を稽古場に、大会でも優勝者を出すなど、門下生は実力をつけてきた。

富岡町は現在、居住制限区域で、佐藤さんが戻るのは教え子の多くが暮らす福島県いわき市。富岡町から車で50分ほどの町で、息子夫婦と生活する。

避難生活で常に気掛かりだったのは、27歳で立ち上げた富岡町少年剣道団の教え子たちのこと。原発事故で離ればなれになってしまってからも、毎月練習や大会の予定表が届き、近況を伝える手紙のやりとりは続けてきた。「悔しい思いややり切れない気持ちも、剣道をやっている時は忘れられた」と話す。

和歌山市に立ち上げた富徳館には、初心者を含め学生時代に剣道をしていた人たちが集い、現在30代から70代までが在籍している

最後の稽古を終え、事務局長の坂本いずみさん(59)は「道徳面でも基本的なことをたくさん教わりました。剣道を再開するきっかけをもらい、心許せるいい仲間と出会え、お金では買えないものをたくさんいただきました」と感謝。50年来思い続けた剣道を始めた松本範子さん(72)は「ご縁をもらい、長年の夢をかなえることができました。剣道の練習が楽しくて仕方なかったです」と感慨深げに話す。教室の活動は今後も継続するという。

佐藤さんは福島と和歌山の子どもたちの剣を交えた交流など、今後も縁を大切にしたいといい「福島に帰ったら、あと6年で結成50年を迎える富岡町剣道団の仕上げをしたい」と意気込んでいる。

記事元: わかやま新報 ※掲載記事内容は記事提供元で過去に掲載された内容になります。

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