南海トラフ巨大地震の発生が懸念される中、被災からの早期復興に向けた市町村による「事前復興計画」づくりに役立てるため、策定の統一手法(マニュアル)について検討する県の研究会が19日、県庁南別館の災害対策本部室で初めて開かれ、有識者による委員や仁坂吉伸知事ら県幹部、県内自治体の首長ら約100人が議論した。
平成23年に発生した東日本大震災では、被災地において復興の遅れにより生活再建への気力などが失われ、人口流出や地域の活力低下が進んでいることから、県は災害に備え、まちの復興のベースとなる計画を事前に県内市町村に策定してもらうことを決定。各自治体が策定した例はあるが、県ぐるみでの取り組みは全国初という。
研究会の冒頭では、座長を務める筑波大学の石田東生教授が「素晴らしいアイデアだ。主役となる市町村の方とさまざまなことを議論したい」とあいさつし、県の取り組みを高く評価した。
意見交換では、東日本大震災や熊本地震の被災地で活動した中央省庁や業界団体の職員らが当時の状況について、「被災直後はあらゆる物資の調達に追われ、復興計画を立てる段階ではなかった」「大量のがれきや廃棄物などの処理に追われた」「住民との合意形成の早さが生活再建に影響した」などと報告。熊本地震の被災地では、町職員が避難所の運営などに追われて役場が人手不足となり、被災地外からの応援職員で何とかしのいでいたという。
複数の県にまたがって甚大な被害が予想される南海トラフ巨大地震への対応について、委員からは「広域での避難が予想され、一度避難した人にどう戻ってきてもらうか、県として体系的な検討が必要」「いつ仮設住宅から復興公営住宅や自宅に戻れるかなどを早く伝え、被災者に安心感を持ってもらうことが大事」などの指摘があり、県内市町村からは、紀伊半島大水害を例に「復旧は何とかなったが復興は遅れた。古い木造住宅がまだ多く、倒壊の恐れがある」「まずは防災に力を入れるべきではないか」といった声が上がった。
研究会終了後、仁坂知事は「どういう姿を取り戻すか決めておけば復興が早く進む。産業はシステムで、一部が壊れると復興が進まないという話は印象に残った。広域の視点でものを考え、(統一手法の)目次を手厚いものにしたい」と意欲を示した。
県は今後も研究会を開き、平成29年度の早い時期に統一手法の完成を目指す。津波の被害が予想される沿岸19市町には、30年度末までに事前復興計画を策定するよう求める。