モササウルス新種と判明 有田川町産出の化石
恐竜が生きた中生代白亜紀後期の海に生息し、2006年に和歌山県有田川町で発見された大型海生爬虫(はちゅう)類・モササウルスの化石が新属・新種であることが判明した。県立自然博物館(海南市船尾)などの研究チームは13日、同館で記者会見し、背びれが存在した可能性、頭骨より大きい脚ひれなど世界初を含む希少な特徴の数々が確認されたことを説明。今後の研究を進展させる世界的に重要な業績が、和歌山から発信された。
【写真】新属・新種と判明した和歌山滄竜の化石の前で小西さん(手前)、御前さん㊧
モササウルスは約9800万年前に出現し、約6600万年前に恐竜と共に絶滅した。トカゲやヘビに近い仲間で、白亜紀後期の「海の王者」と呼ばれる高次捕食者だった。
今回の新属・新種は、学名「メガプテリギウス・ワカヤマエンシス」、県民に親しみを持ってもらおうと、通称「ワカヤマソウリュウ(和歌山滄竜)」と名付けられた。滄竜はモササウルス類の総称で、メガプテリギウスは「大きい翼」を意味し、翼のような巨大なひれにちなむ命名となった。
和歌山滄竜の化石は06年2月、有田川町の鳥屋城山で、有田市出身の北九州市立自然史・歴史博物館学芸員、御前明洋さん(当時は大学院生)が発見。10年から県立自然博物館学芸員の小原正顕さんの指揮で本格的な発掘調査を行い、発見された大量の骨化石を5年がかりでクリーニングし、古生物学者でシンシナティ大学教育准教授の小西卓哉さんを中心に研究を進めてきた。
約8割の部位が残っている極めて貴重な全身骨格化石であり、推定年代は約7200万年前、推定全長は約6㍍。
最大の特徴は4本の脚ひれで、いずれも頭骨より長いという世界初の特徴をそなえ、しかも前より後ろのひれの方が長い。また、前脚ひれは上腕骨の形状から、可動域が大きかったとみられる。
従来、モササウルス類は尾びれを左右に強く振ることで前に進む推進力を得ていたと考えられてきたが、和歌山滄竜の前脚ひれは、ブレーキや左右の方向転換の他に推進力を得る役割も担っていたとみられ、これまでの定説とは異なる泳ぎ方をしていたと推定される。後脚ひれの役割は今のところ分かっていない。
背びれが存在した可能性が高いことも、モササウルス類では世界初の発見。基本的に後ろに傾いている背骨の棘(きょく)突起が一部、前方へ屈曲しており、イルカのように背びれがある生物と特徴が一致している。
さらに頭骨の特徴から、片眼ずつではなく両眼で視界を捉えていた可能性が高い。両眼視は、対象との距離が把握しやすい他、光の感度が上がるため、夜行性だった可能性も考えられるという。
これら多彩な特徴は、モササウルス類の多様化が、従来考えられていた以上に進んでいたことを示している。
記者会見には、御前さん、小原さん、小西さんと自然博物館の和田恵次館長の4人が出席した。
小原さんは「和歌山で発見された化石が世界的に重要なものだったと分かり、とてもうれしい。和歌山の魅力に新たに『化石』が加わった」と喜んだ。
小西さんは、和歌山滄竜の化石は従来の標本に比べて突出して多くの部位が残り、他に見られない特徴も多いことから、「良い意味でやっかいな標本を研究することになった。今後の研究の先駆けになるだけの量と質がある」と語った。
御前さんは「小学生時代から通った山で見つけた化石が、これほどのものとは感慨深い」と話し、子どもたちに向けて「和歌山には面白いことが隠れている。興味を持って調べてみてくれたらうれしい」と呼びかけた。
自然博物館は、来年度以降、和歌山滄竜の化石の公開に向け、展示方法などを検討する。