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鉄分薄口

連載【和歌山の鉄道コラム】 鉄分薄口(てつぶんうすくち)後編

公開日 2025.01.27

和歌山のフリーマガジン「LiSM(リズム)」の2021年9月号から2024年9月号にわたって連載していた和歌山の鉄道コラム「鉄分薄口(てつぶんうすくち)」(著:東和歌天空)。著者から入稿された文章のまま、前編・中編・後編の3回にわたって掲載します。いよいよ最終回、後編の始まりです!

※文章・写真は掲載時のもので現状と合わない場合があります
※安全に留意し、他のお客さんに迷惑にならないよう撮影しています


【第25回】
♬はしーる電車は緑の電車
「南海グリーン」復活待望論

南海電車を愛する人たちによるSNSには、「南海のイメージは、やっぱり緑やで。復活してくれへんかなぁ」との投稿がよく見受けられます。今の塗装に変更されるまで「南海グリーン」と呼ばれる色の車両が走り、プロ野球の南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)のユニフォームにも緑が採用されていました。

YouTubeで「南海電車の歌」を検索すれば、「♪はしーる電車は緑の電車 なーん なーん 南海電車 南の海を走ってく~」っていう昔の歌声を聞くことができます。

「阪急マルーン」という伝統色を決して変更しない阪急電車が、南海本線・空港線に乗り入れるようになるかも…という報道を耳にしました。その内容については来月号で書くとして、阪急マルーンがやってくる前に、南海グリーンを復活させて対抗できないか?というのが、僕の妄想なのです。勝ち目は、うーん(笑)。

※写真は2015年、南海電鉄開業130周年を記念して実現した緑色の復活車両

(2023年10月号)

【第26回】
阪急マルーンが
南海の線路を走る時代がくる!?

阪急阪神ホールディングスの株主総会では例年、株主から阪神タイガースに対して厳しい質問が浴びせられます。でも今年(※2023年)は「岡田監督にしてくれてありがとう!」といった賛辞もあり平穏だったとか。

一昔前、「なんで阪神電車の色をオレンジ(巨人カラー)にしてるねん!」とのツッコミがあり、経営側は「震災以降、電車を明るい色にしようと考え…今後いろいろ検討します」と答えたそうです。そして2020年、黄色と黒色の阪神カラーの電車がデビューしました。  

電車の色を変えないのが阪急電車。「阪急マルーン」と呼ばれるビンテージ赤ワイン色の外装と木目調の内装は、阪急沿線の高級感を表現する憧れのブランドになっています。先だって阪急は、新大阪と十三、大阪(うめきた)を結ぶ路線計画を発表。さらに2031年開業予定のなにわ筋線を通り、新なんば駅から関西空港まで運行したいと表明しました。

南海の線路を阪急マルーンが走ることになり、もしかしたら和歌山まで…。阪急の高級感が崩れるって? 炎上案件ですね(笑)。

(2023年11月号)

【第27回】
時刻表が駅ホームから
撤去されるだと!

とある新聞に、「駅ホーム時刻表 撤去進む」との記事がありました。「南海天下茶屋駅の時刻表スペースが空白になり、いくつかの2次元コードが貼られ、お客さんはスマホで読み取って時刻表を確認する」と紹介されています。ダイヤ改正ごとに新しい時刻表を作るのはコストがかかり、撤去する判断になったそうで、事前にネットで調べてから出かける人が多くなったのも背景にあります。  

でもね、とある有名サイトで南海和歌山市駅→JR京都駅を調べたのですが、提案されたルート1は、市駅からJRで和歌山駅へ行き、くろしおに乗り換えて京都駅まで。こりゃ早いけど高い!

提案ルート2は、市駅から新今宮駅まで南海で行き、JRに乗り換えて環状線と京都線で京都駅へ。こりゃ時間がムダ。

提案ルート3は、新今宮で下りて地下鉄動物園前駅から新大阪へ出てJR京都線で京都駅って、こんな行き方、話にならん!

やっぱり、時刻表をしっかり見て、頭の中でルートを決めなきゃ。以上、時刻表を見て妄想するのが趣味の、僕の言い分でした。

(2023年12月号)

【第28回】
JRと南海は仲良し?
線路の幅も同じだし

線路の幅は、会社によって違いがあります。JR新幹線や阪急・阪神などは標準軌と呼ばれる1435ミリ、JR在来線や南海は狭軌と呼ばれる1067ミリです。標準軌の線路がない和歌山の電車に慣れていると、阪急に乗れば「車体幅が広い~」と思うことも。

同じ狭軌のJRと南海は共用できる利点があり、りんくうタウンから関西空港まで同じ線路の上を走れます。かつて、南海なんば発白浜行き「急行きのくに」は、南海で和歌山市駅まで走った後、国鉄(現JR)の線路で白浜に向かいました。また南海の新造車両は、関東の工場からJRの線路を使って運ばれることもあります。  

現在は仲良しっぽい両社ですが、昔は強烈なライバル関係。南海が浜寺公園をリゾート開発して高師浜線を通したのですが、阪和電気鉄道(現・JR阪和線)はその観光客を奪おうと浜寺支線(現在の羽衣線)を作り、両社員が現場に出て客の誘導でバチバチの戦いをしたとか、しなかったとか。今から100年ほど前の話ですが。

(2024年1月号)

【第29回】
車のほうが便利なのは分かるけど…

紀北に住んでいるみなさん、紀南方面に遊びに行く際、やっぱり車ですよね。車はいつでも出発できるし、高速道路使ったら速いし、現地でも自由気ままに移動できるし。2025年春になれば(編集部注※大人の事情により2027年以降に延びました)、串本町まで高速道路が開通、和歌山市から串本町まで1時間半ぐらいで行けそうです。特急くろしおは2時間20分ほど…めっちゃ負けるがな。

この風潮はヤバイ。鉄道擁護派にとっては大ピンチなのです。JR西日本の発表によると、1日の平均利用者数が2000人以下の路線の中で、営業損益ワースト2位が、きのくに線の白浜駅~新宮駅間でした。すぐさま廃線論が出てくるとは思えないけど、また便数が減るのかなぁ。となれば、さらに利用者が減ってしまう悪循環。

鉄道はね、速さと利便性だけじゃないと思うんです。僕の心の師匠、六角精児さんのように、車窓を眺めながら駅弁とお酒をゆっくり楽しむって最高じゃないですか。でも悲しいかな、駅弁を販売する駅すら減ってきているんですよね。はぁ~。

(2024年2月号)

【第30回】
おむすび購入時間を確保するために
ダイヤ改正!?

南海高野線のダイヤ改正が、2024年1月20日に行われました。コロナの流行が下火になり、高野山への観光客が増大しているため、休日ダイヤの難波発極楽橋行き特急こうや号が増発。また、俗世と聖域との境界に位置するといわれる極楽橋駅から高野山ケーブルカーへの乗り換え時間が、平均5分から8分に増えました。同駅の天井に描かれた絵巻や展示物などを、もっとゆっくり鑑賞してもらいたいとの意図だそうです。

そして僕の注目は、休日ダイヤのお昼前後の時間帯だけで実施された、九度山駅の停車時間の改正。これまで各列車約20~30秒だったのが、5~13分に変更されました。橋本駅以南の高野線は単線区間なので、列車のすれ違い時間の確保のためかな?と思いきや、駅構内にある「おむすびスタンドくど」で販売中のおむすびを、停車時間内に買えるようにした、とのことです。

大昔は、列車停車駅でその土地ならではの駅弁を買うのが旅の風情だったそうですが、そんな情景を復活させた南海電鉄に、あっぱれを(笑)。

(2024年3月号)

【第31回】
あなたは何鉄?
「探検鉄」にチャレンジしてみた

鉄道オタクは、「アウトドア系」と「インドア系」に分かれるそうで、僕は時刻表を見て頭の中で旅を楽しむ「インドア系時刻表鉄」に分類されるとか。“鉄オタ界”でメジャーなのは、アウトドア系の「撮り鉄」(列車の撮影に情熱を燃やす人)や、「乗り鉄」(列車に乗ること自体が好きな人)。そして最近幅を利かせてきたのが、列車の走行音、駅の発車メロディーやアナウンスを語る「音鉄」。中川家さんのモノマネは国宝級です(笑)。  

この春はアウトドア系も楽しもうと、廃線跡や秘境駅などを探る「探検鉄」に挑戦しました。JR海南駅少し北側の「日方(ひかた)駅」と「登山口駅」(現在の紀美野町)を結んでいた野上電鉄。1994年廃線となり、線路跡地の一部は整備されて遊歩道に。写真は海南高校の近く、春日前駅があった場所。現在は休憩所になっています。

平日昼、行き交う人はシニア層が多数。「あの人たちは野上電鉄で海南高校に通ってた?」と妄想…。架空路線や列車を仮想する「妄想鉄」という分野もありますが、それもいいですね。

(2024年4月号)

【第32回】
まちなかローカル線に乗ってみた

南海汐見橋線をご存知でしょうか? 大阪市内にある汐見橋駅と岸里玉出駅を結ぶ4.6kmの路線。汐見橋駅は難波から西へわずか約300m、都会の喧騒が感じられる場所なのに、昭和の佇まいが残る閑静な駅舎です。終点まで9分、2両編成の車両がゆっくりと走り、「都会の中のローカル線」として近年注目されています。

和歌山にも都会(じゃないけど)のローカル線はないかと探したところ、ありました、南海和歌山港線です。和歌山市駅から和歌山港駅まで2.8km。かつて途中に久保町駅、築地橋駅、築港町駅があり、和歌山港駅からさらに水軒駅まで伸びていました。  

難波直通の特急・急行以外は、和歌山市駅の一番端っこ、7番線ホームから2両編成の車両が発車。川岸をノンストップで走り、4分で終点の和歌山港駅へ。降りても駅前に寄ってみたいお店は無し…。折り返し電車に乗らないと1時間以上待つハメになるので急きょ戻り、「まちなかローカル線に乗ってみた」という自己満足に浸った1日でした。

(2024年5月号)

【第33回】
和歌山県東端の駅(?)に
行ってみたものの…

和歌山県内初の鉄道開業は、紀和鉄道という会社が敷いた橋本駅~五条駅間。1898(明治31)年4月11日のことでした。そのわずか約1ヵ月後の5月4日、これも紀和鉄道によって和歌山駅(現在の紀和駅)と船戸駅間が開業。その後、1900年8月に船戸駅~粉河駅間が、同年11月に粉河駅~橋本駅間が開通し、和歌山駅から王寺駅(奈良県)まで「和歌山線」が全通したのです。  

最初の区間の開業で設けられた隅田駅。10年ほど前、隅田中学校美術部員によって駅舎の壁に描かれた「ふる里PR壁画」が話題になっていました。2022年に駅舎が建て替えられ、今は見ることができません。

現在の駅舎は写真通りの簡素な造り。紀の川サイクリングロードの発着点にもなっています。サイクリストはここに到着して、達成感を得るのでしょう。紀の川河口から約60km、おつかれさまです。

僕も電車で和歌山県東端の駅に到着して満悦したのですが、後日地図を見ると、東端は新宮駅だと知ることに…。うわっ、宿題ができたけど、遠すぎ!

(2024年6月号)

【第34回】
時代を先取りしていた南海電車!

2024年7月21日(日)から、阪急京都線に有料座席「PRiVACE(プライベース)」が誕生。8両編成のうち1両だけ連結され、500円で購入できます(予約サイトなど)。座席の配置は「2列+1列」の3列。リクライニング時に座面が前に連動し、後ろの座席の人に気を使う必要はありません。

関西の鉄道各社では、有料座席サービスが続々と始まっています。京阪電車プレミアムカー、JR京都線・神戸線などの新快速Aシート、阪神電車らくやんライナー(試験運用)など。近鉄電車は観光列車なので有料座席は当然なのですが、近年投入する各社は、通勤客へのサービスと運賃単価アップが狙いです。

さて、南海電車は1985年から「サザン」を投入し、自由席車と有料座席車を連結するハイブリッドで運行しています。まさに、時代の先駆け。なお、JR阪和線には比較的安価で着席できる「はんわライナー」という電車が走っていましたが、今はありません。時代が早すぎた?

(2024年7月号)

【第35回】
高野線で活躍していた
5編成目の「めでたいでんしゃ」

南海加太線の「めでたいでんしゃ」の5編成目の運行が始まりました。愛称「加太さかな線」を走る観光列車として、2016年に「さち」(ピンク)が誕生。翌年には「かい」(水色)が走りはじめ、2匹(2編成?)が結婚して「なな」(赤色)が2019年に生まれました。2021年には家族が増えると発表され、第二子が誕生かと思ったら、「さち」の兄「かしら」(黒色)が登場。

そして今回、一族の先祖にあたる「かなた」(レインボー)がやってきたのです。 「さち」から「かしら」までは7100系車両(1969年新造開始)。南海本線のサザン自由席や急行・普通車として大車輪の活躍をし、4編成が「めでたいでんしゃ」に生まれ変わりました。

一方「かなた」は高野線の急勾配曲線を走行するために1990年に新造された2000型車両。曲がりやすいよう、車長17m・2ドアになっています。電車マニアからすると、この違いがたまりません! みなさんは、オシャレな外・内装に興味がありそうですけど…。

(2024年8月号)

【最終回】
線路は続くよどこまでも

岡公園に行けば、昭和に活躍した車両を見ることができます。写真手前は、蒸気機関車(C57型119号)。紀勢本線(きのくに線)や和歌山線などで活躍後、1973年からここに保存されています。和歌山駅(当時は東和歌山駅)と紀伊田辺駅を結んでいた「準急くまの」の客車を牽引していたことから、元国鉄職員が手作りしたヘッドマーク「くまの」が掲げられています。

写真奥は、和歌山市と海南市を走っていたチンチン電車。現在の本町通り、けやき大通り、中央通り(R24,R42)などの道路上を走っていました。けやき大通りはあんなに広いのだから、廃線にしなくても…が持論。野上鉄道や有田鉄道、南海和歌山港~水軒間など、もし今も走っていたら面白いのにと、妄想はふくらむばかり。そう考えれば、廃線危機にあった貴志川線は、よくぞ残ってくれたと感謝!  

3年にわたって続けてきた当コラム、まもなく終点です。長らくのご乗車、ありがとうございました。

(2024年9月号)