阪本繁紀さんが出版 東日本大震災伝える漫画書籍
串本町出身の会社員、阪本繁紀さん(31)が、東日本大震災を題材にした漫画書籍『ある光』を自費出版した。主人公が夢をかなえる物語を軸に、被災前から発災、避難生活、復興までの一連の流れを、震災を知らない世代も理解できるよう漫画形式で紹介。インタビューや取材記事も収録している。阪本さんは「和歌山の人に、津波が来るという実感を強めてもらい、復興後のふるさとへの愛着を考えてもらう一冊になれば」と話している。
【写真】発刊した『ある光』を手に阪本さん
阪本さんは智弁和歌山中、高校を卒業し、中央大学法学部へ進学。2016年に県庁に入庁し、串本町で防潮堤を強化する事業に携わった。県庁を退職後、20年から東京で専門紙の記者をしている。
県職員時代に津波に関する事業を経験したことから、東日本大震災の被災地を知っておきたいと、退職後に東北地方を訪ねた。三陸海岸の地形を目にし「由良町や広川町、串本町とそっくり。和歌山の将来像を見ているようだった」と振り返り、南海トラフ巨大地震で壊滅的な被害が予想される地元串本町をはじめ、和歌山、東海地方の人たちに、危機意識を高めてほしいと本の制作を決意した。復興したそれぞれの町に関して、事前の復興準備によってまちづくりの明暗が分かれることも実感したという。
その後、個人による漫画制作サークル「和歌山下津漫画制作同好会」を立ち上げ、休日を使って取材、編集を行い漫画を描いた。記者としての経験も踏まえ、構想から4年をかけて完成、300部を刊行した。
作品では、福島県いわき市薄磯地区をモデルにした架空の地域を設定。説明的ではなく、主人公、佳文(かや)の学生生活を軸にストーリーが展開され、佳文の視点から順に追体験できる構成になっている。
同県の郡山市民や元自衛官などのインタビュー記事、復興で生じた課題などの取材記事も掲載し、今後の対策に生かすための視点を提示している。
防災教育に活用を
阪本さんは取材を通し、日々の備え次第で助かる命はあることを学んだという。三陸地方は50年おきに津波に襲われ、岩手県大船戸市の平地にある越喜来(おきらい)小学校では、「揺れたらすぐ逃げる」という避難意識が徹底されている。避難訓練などの経験が生かされ、東日本大震災の際は、全校児童が避難し助かったという。
また、被災後の土地を災害危険区域として更地にするのか、形を変えて新しいまちとして復興させるのか、協議しておくことも重要だと伝えている。事前計画を立てておくことで、ふるさとを離れた人たちが早く戻ることができ、バラバラになった地域社会が再構築できる可能性がある。「ふるさとは自分の存在の源。形を変えた故郷に何をもって愛着を抱くか。50年、100年先も地域社会が持続するためには、今考えておかないと」と話す。
阪本さんは、東北で被災した人たちが書籍化に温かい言葉をくれたことがうれしく、本を作ったことが無駄ではなかったと感じることができたという。
東北では、地元の人たちが愛着を抱いてきたまちの姿が大きく変わってしまっているといい「本を通じて、避難生活やまちの整備など復興への過程のイメージを持ってもらい、和歌山の将来について考えてほしい。防災教育に役立ててもらえれば」と話している。
書籍は通販サイトBOOTH(https://booth.pm/ja/items/6023624)から購入できる。1500円。売り上げの一部は、今後津波被害が予想される自治体に寄付する予定。PDFデータでも無償で提供している。
問い合わせは阪本さん(℡070・1065・2937)。