先人が残した「災害の記憶」 県立博物館
県内の石碑や文書に残された災害の歴史を伝えるコーナー展示「先人たちが残してくれた『災害の記憶』」が3月6日まで、和歌山市吹上の県立博物館で開かれている。企画展「紀州を旅する」と同時開催。経験した災害を後世に伝えようと、先人が残してくれた災害の記憶15件を紹介している。
同館は平成23年の紀伊半島大水害を機に、今後起こり得る災害に備えて、命や文化遺産を守るため、文化遺産課や県立文書館、県内外の歴史研究者と連携し、文化遺産の発掘や継承事業に取り組んできた。
今回のコーナー展示では、すさみ町、印南町、串本町での調査結果の一部を紹介している。
このうち「かめや板壁書置」は、印南町にあった蔵内部の板壁に、子孫に伝えるため、当主が安政地震の津波の様子を書き記したもの。地元の印南中学校の生徒の調査結果も併せて展示している。
先日行われた展示解説では、前田正明主任学芸員が地震や津波来襲の様子が書かれた位牌や、余白部分に災害の被害状況を記した過去帳を紹介。「忘れた記憶をよみがえらせる一つの方法として、亡くなった方を供養する機会に合わせ、思い出させようとして書いたのではないか」と話した。
前田主任学芸員は「東日本大震災から5年がたち、確実に記憶の風化が進んでいる。災害の記憶を残す営みがあったことを実物を見て感じ取り、記憶を呼び戻してもらえれば」と話している。
展示解説は7日、13日、21日、3月6日の午後1時半から。27日と28日には串本町やすさみ町で現地学習会が開かれる。
一方、企画展「紀州を旅する」では、江戸時代に紀州の霊場や名勝を旅した人々が残した紀行文や絵画、焼き物など25件を展示。
観光を楽しみながら旅をするようになった当時の生活や心のゆとりも感じ取れるといい、同館では「江戸時代の和歌山は今以上に全国から注目を浴び、訪れる人が多かった。展示資料から、豊かな自然や美しい風景など、今につながる風土の魅力を感じて」と呼び掛けている。