熊本地震の発生から約1カ月。依然として多くの被災者が困難な避難生活を強いられる中、助け合いや平常時からの取り組みの重要性があらためて見直されている。紀の川市西三谷の福島信博さん(59)は、障害のある人が災害時に理解と協力を得やすいよう、自分の状態を知ってもらう工夫があるとよいのではないかと、オリジナルの個人情報カードを作成している。
交通事故とその後遺症により、視力など身体に重度の障害がある福島さんが作成したカードは、表に身体障害者番号や名前、顔写真を載せ、裏には糖尿病を患っていることが書かれている。カードを首からかけていると、食品を買うときのレジなどで店員が即座に親切に対応してくれ、周囲の客も理解してくれるという。カードは不要なときは胸のポケットに収められるサイズにしている。
福島さんは26歳の時、深夜に車を運転中、対向車線から突然センターラインをオーバーしてきた車と正面衝突。飲酒運転だった相手ドライバーは死亡、福島さんは16日もの間、意識不明に陥った。当時の診断は「脳挫傷硬膜下血腫両眼硝子体出血」だった。
意識が戻り、話ができるまでに回復したときには「体のどこかが不自由でも構わない。これまでの記憶と事故前に身に付けたノウハウを生かして、これからどのように生きていくか考えなければならない」と強く思ったという。
個人情報カードの作成を思いついたきっかけは、21年前の阪神淡路大震災の報道の中で「トリアージ」が紹介されていたこと。トリアージは、大事故や災害などで同時に多数の傷病者が出たときに、手当ての緊急度に従って優先順位をつける作業。医師や看護師が一人ひとりに聞き取りを行って緊急度を見極めている様子を見た福島さんは、障害者が自分の状況を表現できる準備をしておけば、作業がスムーズではないかと感じた。
カードに記した基本的な情報に加え、同じ病気でも患者により薬や服用の量などが異なることを考え、災害や緊急時に支援する人が対処法をスムーズに理解できるよう、自分のスマートフォンには服用薬とかかりつけ医を入力している。
近い将来、和歌山が経験するであろう大地震や津波への備えの一つとして、障害のある人、体調の優れない人、地域にとけ込めていない人などのための準備が必要と感じている福島さん。こうした人たちが過ごしやすい避難所の環境づくりについても意見交換ができるよう、ホームページの作成を計画している。
福島さんの趣味は古墳時代の郷土史の研究。フィールドワークなどに出掛け、その成果や自分の考えを本紙に投稿したこともある。
障害を抱えていても、日々の生活の質を高めるため、もしもの災害時のために準備できることが確実にある。一人ひとりにできることを福島さんは呼び掛けている。