文化財の盗難被害を防げ 実態知る特別展
県内の文化財盗難被害の実態を紹介する企画展「防ごう!文化財の盗難被害」が7月10日まで、和歌山市吹上の県立博物館で開かれている。新たな被害を防ぐための注意喚起にと、実際に盗難被害に遭った仏像を中心に約50点を紹介。同館では「文化財を取り巻く状況は危機的状況。『まさか自分の地域は被害に遭わないだろう』というのではなく、地域の文化財に関心を持ち、防犯対策を見直してもらう機会になれば」と呼び掛けている。
県内では平成22年から23年春にかけての1年間で、被害届が出ているだけで、約60カ所の寺や堂から仏像など160体以上が盗まれるという、過去に例のない連続盗難被害が発生している。
同館ではこれまで同様の企画展で啓発してきたが、ことしに入ってからも県内で指定文化財の盗難被害が発生。今後被害が拡大しかねないという危機感もある中で、広くアピールする。
初日の11日に行われた展示解説で、大河内智之学芸員は、村の宝として代々管理されてきた仏像を紹介し、文化財は地域の歴史そのものであることを強調した。
展示物のうち、中津川行者堂の本尊像は平成22年8月に盗まれたが、翌年、窃盗犯の逮捕によって取り戻すことができたもの。脇に祭られていた像は、いまだに見つかっていないという。
オークションカタログに掲載されていたのを大河内学芸員が偶然発見し、取り戻すことができた愛染明王立像も展示。「これらの仏像を取り戻すことができたのは奇跡的。実際に盗まれた物の大半は戻ってこない」とし、文化財を守る対策として、全国的にも例のない、同館が和歌山工業高校の生徒の協力を得て取り組む3Dプリンターを使った複製「お身代わり」像制作の取り組みを紹介。併せて、文化財の写真や寸法など、記録を残しておくことの重要性を伝えた。
一方で、盗まれ回収された仏像の所蔵者が分からないまま、大量に取り残されるという事態が発生。所有者が判明したのは3件のみ。今展では所蔵者不明の被害文化財40点(部品を含む)が全て展示され、大河内学芸員は「いわば、今の状態は、仏様の尊厳が損なわれている状態。その尊厳を回復するためにも、本来あった場所に戻したい」と話した。
また、特別陳列「初公開・粉河寺の千手観音立像―粉河の名宝とともに」も同時開催。
今回、粉河寺本堂(重要文化財)の小規模な修理が行われることになり、これまで未調査のため、公に知られていなかった千手観音立像が初公開されている。
高さ約160㌢の同立像は平安時代後期の作とされ、造られたのは国宝の粉河寺縁起絵巻が作製されたのと同じ頃という。柔和な表情の像で、手の平には水晶製の目「玉眼」(ぎょくがん)がはめられ、来場者の関心を集めている。
また、紀の川市中津川の熊野神社に伝わる、大和守安定(富田宗兵衛安定)作の剣も、研磨後初公開となる。
学芸員による展示解説は19日、25日、7月9日にも午後1時半から行われる。問い合わせは同館(℡073・436・8670)。