有害駆除されたシカやイノシシの皮をバッグなどの革製品に加工する事業に、有田川町の中井謙次朗さん(29)が取り組んでいる。鳥獣の肉を使ったジビエ料理は近年、人気が高まりつつあるが、工芸品としての販売は全国的にも珍しい。開催中の近鉄百貨店和歌山店(和歌山市友田町)のフェアで、自ら手掛けた商品を販売しており、「ジビエを多方面に活用することは、中山間地域の活性化につながる。素材自体も魅力的なので、ぜひ知っていただきたい」と呼び掛けている。
中井さんは大阪府寝屋川市出身。父が串本町出身という縁もあり2年前、県内にIターンした。仕事を通じて人の心に寄り添いたいという気持ちが強く、「サービス業を徹底的に学ぶ」という考えから、これまでに百貨店、保険の営業、ホテルスタッフなどの仕事を経験。移住後は日高川町などで林業の仕事に就いていたが、有害駆除される鳥獣の多さに衝撃を受け、活用法を模索した結果、工芸品としての活用にたどり着いた。
すでに東京スカイツリー内の商業施設「ソラマチ」で商品を販売した他、仁坂吉伸知事に手紙を送ったことがきっかけで、県の協力も得られるように。現在はヤマト運輸和歌山主管支店とも協力し、ジビエの流通拡大へ努力を続けている。現時点で一切の補助金を受けておらず、こうした取り組み事例は全国的にも非常に珍しいという。
中井さんによると、ジビエの革製品は人間の肌と相性が良く、商品の多くを占めるシカ革はしっとりして柔らかく、伸縮性があり、男女ともに使いやすいという。現在はハット、財布、名刺入れ、クッション、バッグなどの加工製品を取り扱っており、予約販売で注文を受け付けている。
中井さんは「実際に手に取られた人の中には、ずっと身に着けていたいと話す人もいます。ぜひ完成した商品を手に持ってもらいたい」と話している。
「きのくにレザー」のブランド名で和歌山の皮革製品の発信に取り組んでいるTERRA(和歌山市堀止西)の藤井智砂子さんによると、和歌山は兵庫、東京と並ぶ皮革業の3大産地に数えられながら、縫製業者が少ないために製品化は県外で行われることが多く、県内での製品化が課題という。ジビエの活用は、皮革産地・和歌山を内外にPRできる新たな取り組みとして期待される。
中井さんによる商品の販売は同百貨店2階のハンドバッグ売場で26日まで。会場ではTERRAによる革小物作り教室も、25日まで開かれている。