保存修理が進められていた有田川町二川(ふたがわ)の安楽寺所蔵の国指定重要文化財「安楽寺多宝小塔」の修復作業が完了。県立博物館(和歌山市吹上)で3月5日まで開催中の企画展「有田川中流域の仏教文化」で、寺外では初公開されている。
多宝小塔は、真言宗系の寺院で大日如来を体現するとされる多宝塔を縮小して造られたもの。安楽寺多宝小塔は南北朝時代の14世紀に建立された高さ2㍍9㌢の塔で、外観、構造ともに屋外の多宝塔をほぼ忠実に再現。全国で確認できる11基の多宝小塔の中でも最古級で、唯一、単独で建造物として国の重要文化財に指定されている。
修復に伴う調査で、これまでは下層の正面中央のみに扉があったが、もとは4面全てにあったことなどが判明。今回の修復により、建立当初の姿がよみがえった。修復後は同寺の収蔵庫に収められるため、今回の企画展は、間近で見られる貴重な機会となっている。
同展ではこの他、同小塔が伝わった有田川中流域(かつての阿弖川荘〈あてがわのしょう〉)各地に残された仏像や掛け軸など、県、町指定文化財や初公開を多数含む約60点を展示している。
寺と地域が密接に結び付いていたことが伝わる、天正8年(1580)に作られた牛玉宝印の版木(はんぎ)、楠本地区の法福寺に伝わる仏像群から、阿弥陀如来坐像など貴重な文化財が並ぶ。
同館の大河内智之主査学芸員は「企画展の事前調査で重要な資料が多く見つかり、歴史が新たに浮かび上がってきた。多宝小塔修復完成の機会に、阿弖川荘には高度な仏教文化が営まれていたことを知ってもらいたい」と話している。
学芸員による展示解説が3月4日午後1時半から行われる。問い合わせは同館(℡073・436・8684)。