オリーブ油を使用した化粧品シリーズや、歌舞伎などで使われる伝統の「びん付け油」などの製造、販売を手掛ける㈱シマムラ(和歌山市宇須、島村辰彦代表取締役)は、ことし創業175周年を迎えた。日本で初めて民間栽培のオリーブ園を開設し、オイル美容のパイオニアとして走り続ける同社は、伝統と革新を胸に、新たな歩みを進めようとしている。
天保13年(1842)、初代・島村冨次郎が小間物・雑貨商の4代目総本家島村安兵衛から分家し、同市新通で髪油、びん付けの製造販売を開始したのが同社の始まり。成分の配合や練り方など独自の製造技術を開発し、嘉永から明治にかけて「紀州びん付け」ともてはやされ、人気を集めた。
現在まで歌舞伎役者の化粧の下地として使われ続けている同社の「鈴虫びん附」は、ドーランを塗る前に塗っておくと、舞台で汗をかいても顔に汗が出ず、化粧もくずれない。伝統の技法で作られており、現在製造を担当している職人の和田浩一さんは昨年、厚生労働大臣表彰「卓越した技能者(現代の名工)」に選ばれている。
同社の主力商品に欠かせないオリーブとの出合いは明治期にさかのぼる。富国強兵が叫ばれ、軍の保存食となる「マグロの油漬け」の缶詰に使用する油として、政府がオリーブ油に着目。温暖な地中海性気候の香川県小豆島でオリーブ栽培が奨励された。この機運に乗った4代目社長の冨次郎は、民間で初めてオリーブ栽培を手掛け、大正末期には現在の「小豆島オリーブ園」を創設した。
昭和53年には、一般的にはまだなじみのなかったオリーブ油を保湿成分として配合した「鈴虫オリーブハンドクリーム」を発売。「鈴虫オリーブ化粧品」はシリーズ化される。小豆島や四国では土産品としても販売され、一度購入した人や贈られた人が「もう一度使いたい」とリピーターになることが多い人気商品となっている。
平成26年には、オリーブ油だけでなく、オリーブの葉や実のエキスを総合的に配合した「KEHAIシリーズ」を発売し、新商品の開発を続けている。
同社には、日本全国から届いた、製品の評価を記した数多くの手紙やハガキが大切に保管されており、企画担当で島村社長(64)の長女・奈菜さん(31)は「お肌の悩みを解決できましたというお便りが一番うれしい」とほほ笑む。
新たな商品を生み出し続けてきた同社にあって、びん付けの包装紙は昔ながらの懐かしい意匠のまま。これまでの商品の意匠の一部は、島村社長の父・冨朗さん(故人、大正11年生まれ)が10歳前後のころに収集し、ノートに美しく貼り付けたものが残っている。
「バラの花の栽培が趣味で品評会で入賞するほどの腕前でした」と父を懐かしむ島村社長は、風流を尊んだ社風を守りながらも、現代的なパッケージや商品の考案に、奈菜さんと共に取り組む。