HOME グルメ 和歌山ラーメン誕生物語 ~第3話~ 「なんか独特? 和歌山のラーメン店文化」

いまや全国的な知名度を持つ「和歌山ラーメン」。そのブームが生み出された経緯を知る筆者(S.Satoh.SD)が、後世に伝えるべく、ロカルわかやまに書き綴る第3話。

第2話までのあらすじ

テレビ東京「TVチャンピオン 日本一うまいラーメン選手権」で、和歌山市の『井出商店』が日本一に輝いて以降、なにかと和歌山の街が騒がしくなってきた1998年初頭。季節は過ぎて夏、情報誌の編集に携わる私の元に、新横浜ラーメン博物館の広報担当者が訪ねてきた。

第1話は こちら で読めます
第2話は こちら で読めます

和歌山ラーメンの歴史を知りたい

1998年夏、私が初めてお会いした新横浜ラーメン博物館の広報担当の武内伸さん。実は武内さんは、1998年1月に一度、和歌山に潜入経験があった。

編集部Horry(以下、H)「潜入って、何か怪しい動きでもされていたんですか?」
私「武内さんの話を聞くと、確かに怪しい動きだったとも言える」

福岡生まれの東京育ちの武内さん。ラーメン業界では超有名人で、いろんな媒体に登場し、「ラーメン王」の称号も持っていた。あまりのラーメン好きが高じて、お堅い企業勤務から、新横浜ラーメン博物館の広報マンに転職し、ラーメンを“天職”にしたというツワモノ。

私「全国を股にかけてラーメンを食べ歩いていた武内さんにとっても、1998年までは、和歌山の味は未知の世界だったらしい」
H「それで和歌山に旅行して、ラーメンを食べたってわけですか?」
私「旅行って…業務の一環だから出張やわな。『知らないものは食べてしまえ!』が人生のコンセプトの武内さんは(す、素晴らしい)、和歌山の実力を見極めようと、『中華そば』の暖簾を見るや否や、片っ端から食べ走った」
H「“食べ歩く”ではなく、“食べ走った”ですか?」
私「地方都市はラーメン店が1つのエリアにまとまっていることはあまりないので、ラーメンを食べまくる際には、スーパーカブをレンタルして、走り回るんやて。車より小回りが利いて便利、と力説してたわ」

※イメージ写真

武内さんの目的は、味を知ることだけでない。和歌山ラーメンの歴史について調べることも重要な任務だった。

H「歴史を知りたかった理由は、新横浜ラーメン博物館の展示で『和歌山ラーメン』の企画展を考えていたから」
私「その通り!って、第2話に書いてたな」

和歌山の老舗でラーメンを食べた後の勘定の際に、名刺を取り出して自身の正体を明かし、和歌山ラーメンの発祥や歴史を聞こうとした。

H「それ、かなり怪しい動きですね」
私「今から30年近く前のこととはいえ、どの老舗の店主も2代目以降になっていることが多く、『分からんなぁ』という返事が多かった」
H「お勘定の時にいきなり聞かれてもね。だから潜入調査ですか」
私「何軒かは話してくれたようだけど、1998年1月の調査はほどほどで諦めた。で、夏の和歌山主張の最大の目的は、本気で和歌山ラーメンの歴史を調べること」
H「それで、本当は何も知らないSさんを訪ねてきたのですね」
私「何も知らないは余計や」

和歌山の不思議な食文化

私「武内さんから相談されて、なんとかコネを使い、老舗のキーパーソンに会える段取りを付けたのだが、その話は第4話で」
H「引っ張りますねぇ」
私「夏の和歌山出張でもスーパーカブを愛車として各店を回ったようだけど、『Sさん、和歌山のラーメン店には独特の食文化がありますね』と武内さんは話し始めたんよな」

以下は、武内さんから知らされて私が唸らされたこと。その後、私がいろんな媒体に記述して、そこから拡散されたことによって今ではよく知られている項目だが、初めて言語化したのは武内さんと私である。

H「それ、自慢?」

1998年当時に記したものなので、今は微妙に変わってきているが、武内さんが驚いた和歌山のラーメン店の特徴を列記しよう。

①「丸」「○」が付く店舗名が多い
②店に入ったら水はセルフで入れる

③スープは「車庫前系」と「井出系」に分かれる ※第4話で詳しく説明
④テーブルに「寿司」「ゆで卵」が置かれていて、好きなタイミングで食べていい
⑤麺の1玉の分量は100~120gと少なめ
⑥飲んだ後の締めで食べる人が多いので、スープは多め

⑦量が足らない人のために、「寿司」「ゆで卵」というサイドメニューの存在がある。一部のお店には「おでん」も
⑧具は、青ネギみじん切り、チャーシュー、メンマ、かまぼこ。「なると」ではなく「かまぼこ」なのが珍しい。チャーシューはシンプルな煮豚が多い
⑨伝票は存在せず、会計はお客さんの自己申告
⑩地元和歌山では「ラーメン」よりも「中華」と呼ばれ、「和歌山ラーメン」といった名称は存在しない

H「今もそんなに変わっていませんね。ところで当時、『和歌山ラーメン』との呼ばれ方はされていなかったのですか?」
私「和歌山では『ラーメン』というとインスタントラーメンをイメージする人が多かったかな、昭和・平成初期まで」
H「逆に不思議」
S「『中華ひとつ!』と言いながら店に入ってきて、水を自分で入れて席について、『ゆで卵』をむき始め、『早すし』を頬張りだし、中華が運ばれて来たらテーブルコショウを大量に振りかけて完食した後、立ち上がってポケットのジャリ銭をつかみながら『中華に、すしと卵が1つずつ』と申告してお金を渡し、店から出ていくオッサンの姿をよく見たわ」
H「一切ムダのない流れですね」

第4話へ つづく(近日公開)

【和歌山の一杯】
元車庫前 丸宮中華そば本店

中華そば(700円)※2025年7月実食

「進化している」…麺をずずずっと口に入れ、レンゲでスープを一口味わった瞬間、そう感じた。1949年創業の老舗。現在は3代目だという。自家製麺になり(量も増えた?)、豚骨のコクが以前よりも増したように思う。ビジュアルも濃い茶色から、マイルドな趣になっている。

他の老舗ではあまり見られない、「餃子」「焼き飯」「唐揚げ」「酢豚」といった中華料理メニューがそろっているのも特徴。焼き飯ハーフが付く「ランチセット」(950円)など、ランチメニューが豊富。また、数量限定の特製の「つけ麺」なども随時登場(インスタで告知)。と、老舗ながら新たな風を吹かせている。

名称 元車庫前 丸宮中華そば 本店
所在地 和歌山県和歌山市毛見1130-3 地図
電話番号 073-445-4881
営業時間 11:00~14:00(OS)、17:00~20:30(日曜は20:00まで)
※スープがなくなり次第閉店
定休日 月曜 ※祝日の場合は昼のみ営業、火曜休み
駐車場 あり
Instagram @marumiyatyukasoba