HOME グルメ 和歌山ラーメン誕生物語 ~第5話~「コク深く、まろやかな井出系の誕生」

いまや全国的な知名度を持つ「和歌山ラーメン」。そのブームが生み出された経緯を知る筆者(S.Satoh.SD)が、後世に伝えるべく、ロカルわかやまに書き綴る第5話。

第4話までのあらすじ

1998年(平成10年)1月放送のテレビ番組で、和歌山市の「井出商店」が日本一と紹介されたことから、「和歌山ラーメン」ブームが巻き起こる。同年夏、新横浜ラーメン博物館広報担当者(武内伸さん)が和歌山に入り、味の特徴や歴史や食文化の調査を行っていた。

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2系統に分類された和歌山の味

私「和歌山の中華そばの味は2系統に分けられる…と和歌山史上初めて、新横浜ラーメン博物館の広報担当・武内伸さんが分析。20世紀最後の、目からウロコの事象だった」

編集部Horry(以下、H)「たいそうな…。2系統とは、『車庫前系』と『井出系』ですね。結構いろんなところで聞く有名な話ですが」

私「ブームになる前、そんなことを考えながら食べるヤツはおらんかったわ(たぶん)。究明した武内さんは、さすが博物館の人であり、真のラーメン王(第2話)。武内さんが『車庫前系』のキーパーソンに迫り、誕生秘話を綴ったくだりは、第4話 に詳しく書いているので、ぜひ読んでほしい。この第5話では『井出系』の誕生について記述しよう」

H「ようやくここまで来ましたか」

井出商店の味はこうして生まれた!

H「丸髙さんのキーパーソンの取材に引き続き、井出商店さんへの取材も行ったんですね」

私「そりゃ当然! でも、私は同行していない(なぜ同行できなかったは忘れた)。武内さんが店主・井出紀生さんに伺った話を後日、私が武内さんから聞き取ったメモを元に話を進めるぞ」

H「ふっ、又聞きですか(半笑い)」

私「いやまあ…何年か後、井出さん自身からしっかり話を聞いたけどね(汗)。戦地から戻ってきた直後に亡くなったご主人の跡を継ぎ、氷の卸商(屋号=井出商店)を営んでいた井出つや子さん(紀生さんの母)が、見よう見まねで覚えた中華そばを、屋台を引いて夜に販売を始めた。1953年(昭和28年)のこと」

H「氷の卸商が発祥だから、店名に“商店”が付くのですか」

私「つや子さんは、昼は氷の卸、夜は中華そばの屋台というダブルワークで、紀生さんたち3人の子供を育てた。やがて中華そば一本になるが、夫の形見となる『井出商店』の屋号は引き継いだ」

H「苦労されたんですね」

私「つや子さんが当初出していた澄んだ醤油味のスープの中華そばは、思うように売れてくれなかった。どうしたらもっとおいしくなるのか、研究に研究を重ねていたある日、コクをもっと出そうと強火で焚きこんだところ、スープが思っている以上に濁ってしまった。『失敗したかな?』と思いきや、まろやかでコクがあり、とてもおいしくなっていることを発見」

H「最初は偶然の発見だったのですか」

私「実は九州の白濁系豚骨ラーメンのスープも、煮込みすぎて失敗か?と思ったことから生まれたと、武内さんは語っていたわ」

―以下はネットで調べた話―
“福岡県久留米市にあった「三九」というラーメン店。戦後まもなくのある日、店主が母に「スープの火加減を見といてくんないか」と言って買い出しに出かけた。引き受けた母だったが、店主が帰ってくると、火はつけっぱなしでグツグツ煮立っていた。「やばい、もうすぐ開店時間だ!」と慌てる店主がスープを飲んでみると、「おいしい!」。この後、「三九」はこのスープを使用して大繁盛。やがて、白濁豚骨ラーメンが九州中に広まったという”(日本テレビ「ザ!世界仰天ニュース」HPより)

H「ダンナが愛してやまない九州のラーメンにも、そして和歌山の味にも、誕生するまでに同じようなエピソードがあったとは」

私「失敗は成功のマザー(©長嶋茂雄)ということや(半笑い)。さて、話を井出商店に戻そう。1968年(昭和43年)に店舗を構え、2年後から紀生さんもお店で働き始める。親子は以降も研究を重ね、“コク深くまろやか、あと味あっさり”という独自のスープが完成、和歌山県内きっての繁盛店になった。店で修行した人が独立し、またこの味を目指した人たちが店舗を構えたことで、県内各地に広まったというわけ」

H「和歌山ラーメンに歴史あり、です」

私「その“和歌山ラーメン”という呼び名は、昭和の人間にとって今も違和感ありありなんだけど」

H「もうええ加減、慣れてください」

そして和歌山ラーメンは、1998年秋にブームのピークを迎えることになる。「新横浜ラーメン博物館」に、井出商店がいよいよ出店!

第6話に つづく (近日公開)

【和歌山の一杯】
大福軒 西浜店

1998年(平成10年)の「和歌山ラーメンブーム」時に営業していたお店を、2025年(令和7年)に訪れて食べたレポート。

中華そば(650円)※2025年9月実食

古くから開業している中華そば屋の取材をする場合、事前に質問事項を考えることはしない。大抵のお店は「まあ食べてよ、その感想を書いてくれたらええわ」となるからだ。とはいえ、自分の舌の感想だけで原稿を書くのも限界がある。

ここ「大福軒」の初取材は、27年も前。「ウチは自家製麺やで」という一言だけで、あとは好きに書いて、とお任せになった。

困り果てた30代の私。中華そばを食べていた隣のテーブルの年配のオヤジ連中に「大福軒」の良さを聞いてみた。そしたら一言…
「ここの味が和歌山で一番よ」
このフレーズ、いただき!

当時執筆していた情報誌に「取材時に居合わせたお客さんも『この味が和歌山一やで』と豪語した」と書いたところ、普及し始めていたネットでこのフレーズが拡散。「怖い世の中になったなぁ」と初めて実感したものだ。

さてさて久しぶりに実食。想像以上にあっさり目で、麺はやや太く、モチモチ。27年前のオヤジ連中に年齢が追いついた(追い込した?)と思われる2025年、あのフレーズが脳裏をよぎった。

名称 大福軒 西浜店
所在地 和歌山県和歌山市西浜1136-10 地図
電話番号 073-444-4901
営業時間 11:00~OS14:00、17:00~OS21:30
定休日 月曜
駐車場 あり